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患者さんへの敬意

 患者さんたちへの敬意は、毎日の診療努力で表現されます。テレビドラマで演じられる心臓外科医のかっこよさも、クールさも、全て虚像で(私にとってはコメディーです)、実際には生命の儚さに平伏したり、患者さんの容態に一喜一憂したり、日曜、祝祭日もなく愚直に人生の全てを捧げてきたと言っても過言ではありません。24時間いつも頭の片隅には、患者さんの容態の懸念が占有します。元気に退院され、元気に外来通院されることでのみ救われてきました。

 心臓手術を成功に導くため、外科医が持ち合わせなければならない能力とはどのようなものなのでしょう? よくそのような質問を若い先生方から尋ねられます。私も明確にはわかりません。でも次の4つの能力は、常に向上努力が必要と感じています。1. 論理的思考力:どう切開して、どう吻合すれば、自ずとどうなるかという思考力。2. アート:例えば真っ白なキャンバスに風景を描くとして、その背景や被写体の輪郭を、シンプルで美しく、絶妙のバランスに彩る力。3. 科学的思考力:プランされた治療後10年の人生を、今までの知見からどう説明できるか、ハッピーになっていただくためになぜ手術が必要なのかという説明責任能力。また得られた経験の客観的検証能力。4. マインド:例えば、一点差で9回裏フルベース、マウンドに立ったとして、フルカウントからどのような一球を投球できるか。明鏡止水のごとく動じないマインド。

 このように一例一例の手術において、われわれは患者さんだけでなく、周囲スタッフからも常に試されています。その施設のスタッフ内で評判の悪い医師には、関わらないのが無難です。

 私は幸運なことに、砂田医師(2005年名古屋市大卒、名古屋第一赤十字、名古屋東部医療センターなどを経て当科に赴任)、伊藤医師(2012年東大卒。竹田綜合病院、健康長寿医療センターを経て当科に赴任)という2人の論理的思考力の確かなスタッフドクターをはじめ、多数の優秀なスタッフに恵まれています。彼らはヒエラルキーにとらわられず、歯に衣着せず直説法で陳述し(ときには部長を弾劾し)、常に次の安全のために全力を尽くしてくれています。私のチームにYesマンは必要ありません。“常に失敗から学ぶことのできるチーム”が我々の大切な理念の一つです。“私、失敗しませんから”という外科医は、一見優秀そうに思えますが、自己正当化の罠にハマり、失敗から学ぶチャンスも自ら放棄する、典型的なヤブ医者です。私に限らず外科医は皆、発展途上の学徒なのだと思います。

​2017年4月

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